去る7月8日、沖縄県内で69日ぶりにコロナ感染が再確認された。
そこから3日後の7月11日、沖縄県は在沖米軍海兵隊キャンプハンセンにて13人、普天間基地にて32人のコロナ感染者が確認されたと発表。12日には浦添市にあるキャンプキンザーでも1人の感染が確認され、県内の米軍海兵隊関係者では7月2日から10日までに確認されていた17人と合わせて、12日までに合計63名の感染が確認されたとしている。
それまでは軍の機密情報として感染者の数を公表しない(軍から県に報告はするが公表させない、公表した場合それ以降の情報を出さない可能性あり)としていた姿勢を一転し、在沖米軍トップの四軍調整官 Lt. Gen. Stacy Clardy中将は、『県が公表しても報告を続けたい。』と発言。
その発言を受け、沖縄県としては軍から伝えられた感染者数を公表することに決定し、上記の数字が表に出た形だ。
ハンセン、普天間ともにクラスター発生と認識され、今後の数字にも大きな注目、そして県民の不安が募る。
米軍の規定の中には、『軍人および軍属関係者にはOPSEC(Operation Security) 作戦保全、守秘義務があり、個人の情報発信に対しても軍事情報を漏らすような内容は禁止』という内容がある。
故に、彼ら個人個人としても、地元沖縄の友人知人に対してでさえ、安易に軍内部の情報を外に口外しないよう注意を払っている。それは軍という組織上当然と言えば当然なのかもしれない。
しかし我々県民としては、これだけ小さな沖縄県という同一島内に組織され、たった一枚のフェンスで囲われているだけの別国という隣人が今どういった状況に置かれているのか、いきなり目の前に訪れたコロナパンデミックという状況の下でどういう心境なのか。
それを知っておきたい、確認したいという心情も大いに理解してもらいたいものだ。感染者の行動履歴開示など、県民が少しでも対策に応じられる情報も必要だと感じる。
そこで私なりに、現在公に米軍から提供されている情報の元で彼らの動向、心情などを伝えられる限りで伝えてみたいと思う。
HPCONとは
まず、米軍内には軍組織という仕組み上、様々な取り決めや指標が存在する。全ての軍人には階級が与えられ完璧なる縦社会であることはもちろん、台風の襲来に関しては Typhoon Condition という指標があり、TC-1、TC-2などレベルによってゲートが閉まったり学校や仕事が休みになったりという統制が取られている。
現在世界中を震撼させているコロナのような感染症拡大予防策にしても、HPCON (Health Protection Condition 健康保護条件)という指標レベルによって生活における行動の規制が統制されているのである。
12日現在、クラスター発生を受けハンセンおよび普天間基地を組織内に持つ海兵隊では、HPCON レベルC(チャーリー) という5段階の上から2番目のレベルに引き上げられており、それに伴い様々な行動規制が義務付けられている。(空軍、海軍、陸軍はまたそれぞれに規制レベルが異なる。今回はクラスター発生の海兵隊に着目してお伝えする。)
今回のHPCON C で禁止とされている行動
・基地の外での個人的な行動は原則禁止。どうしても必要な外出の際には部隊の中佐(O5)以上の許可が必要。
・基地の外でのレストラン飲食、テイクアウト、ドライブスルー禁止
・基地の外での公共乗り物の乗車禁止
・基地の外でのアウトドア、トレーニング活動禁止
・基地の外の学校登校、チャイルドケアの活用禁止
などである。
細かい内容は毎日のように(72時間有効)アップデートされるので、12日現在の内容であることはご了承頂きたい。
明らかな規制レベル違反
それでは、今回のHPCON Cに引き上げられる以前、クラスターが発生する以前の規制レベルはどの程度のものだったのだろうか。
在沖米軍自体は、今年の3月末ごろからコロナ感染症対策として『HPCON C』を発令し、4月上旬にはHPCON C+まで規制レベルを引き上げた。最高警戒レベルのD(デルタ)まで目前のレベルだ。
しかしその後、日本における緊急事態宣言が解除され、県内での学校も再開、人々が日常生活を取り戻し始めた頃の6月17日、米軍内でも一定の落ち着きが見られたとの判断からなのであろう。規制レベルが上から3番目のHPCON B (ブラボー)に引き下げられ、規制項目もそれまでの C(チャーリー)からだいぶ緩和された。
ただし、日常生活における注意事項は複数項目継続されており、特に
・密となる状態が避けられない状況下のイベントやアクティビティには参加してはならない。
・基地の外でのバーやナイトクラブへの出入りは禁止
などの項目が発令されていた。
今回クラスターの発生が起きた原因は、アメリカの独立記念日に合わせて開催された野外でのパーティーではないかとの報道がある。そこには米軍人、地元の人間も含め数百人規模の若者が集まり、フェスを楽しんでいたという。
これは明らかに規制レベルHPCON B に違反していることになる。
自分自身も、先日のブログで米軍の規制が緩和された今、本土や海外からの観光客が見込めない今、県内在住の米軍を、しかも独立記念日ウィークという大きなタイミングで彼らをマーケットとして捉えてもいいのではないか?
と伝えた以上、責任的なものも感じたりもする。しかしそれ以上に、何のための規制であり、誰がどう規制をコントロールしていたのか、その管理能力への不信、そして規制を掻い潜って密集で騒いだ彼らへの不信感、裏切られた感がものすごく強い。
若い兵士らによるものか 軍人、軍属からも不満
実は軍人、軍属の中からも不満の声が後を立たない。一握りの責任感の無い人間たちのために軍人・軍属全ての人が白い目で見られ、規制の強い縛られた生活に後戻りを余儀無くされる。現役の軍人は元より、家族の中には外での民間の仕事に就いている者もいれば、外の学校に通う子供達もいる。そこへの影響も計り知れない。
彼らの中には、この時期(6月〜8月は米軍の中でのローテーション時期にあたり、入れ替えの移動が最も活発になる時期)ということで本国から沖縄に赴任したばかりの若い兵士が、浮かれ気分でパーティーに参加してしまったんだろうと話す人々も多い。沖縄の米軍基地は、米軍の中でも赴任先としてとても人気が高い土地でもあるようだ。
世界目線で冷静に捉えるべき
おそらくまだ米軍内でも感染者の数は増えるのではないだろうか。もちろんフェスに参加した日本人のリスクも計り知れないわけで、逆に日本人の感染者が出ない方がおかしいとも考える。日本でもまだまだ密は避けるように、密集するイベントは自粛するようにという御触れが出ているのではないだろうか。彼らに対する我々の目線はどうなのか。
我々とて、一部の自己都合の強い人間によるクラスター発生は大きな迷惑であり、今後の沖縄の観光に与える影響の懸念は増すばかりである。観光業従事者にとっての怒りは頂点に達しているのではないだろうか。
しかし一呼吸は置いて考えよう。現在アメリカで大きな社会問題となっている人種差別問題、自分たちが正しくて相手だけが悪いという偏った考え、場合によってはあのような惨事と同じような状況が沖縄でも起こりかねない。目先の情報、感情だけに囚われるのではなく、世の中に起こっている世界中の問題として捉えていくべきだと考える。
E.KEMURA
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